自治体のDX共創促進事業をサポート。忘れ物取り扱い10万個を目指す企業が取り組むDX
Lost Item Delivery株式会社
2011年8月、大分県で創業。「観光立国の一翼を担う」ことをミッションとする。
2019年インバウンドゲストが年間3188万人と最多となった、その翌2020年1月に「訪日外国人の忘れ物が多く、宿泊施設の業務を圧迫している」という報道を目にした代表取締役社長の吉永陽介氏が、自身のホテルマンとしての経験と、輸出入の業務で海外配送のノウハウが蓄積されてきたこともあり、宿泊施設とゲストと地域を忘れ物でつなぎ、訪日外国人であふれる街作りを支えることを目指して事業化。
新型コロナウイルス感染拡大により、外国人の日本への渡航が激減しました。しかし、2022年以降は円安も手伝い、外国人観光客の人数も増えています。
そこで出てくる問題の1つが、忘れ物です。
ホテルに宿泊された外国人の忘れ物は、日本に滞在中であればまだしも、帰国された場合は、国ごとのルールが異なり、配送が困難なことも多々あります。
Lost Item Delivery(ロストアイテムデリバリー)は、2022年に外国人向けの忘れ物配送サービスを大分で開始しました。
少数精鋭で業務展開する中、自社システムの構築が必須となってきた折りに、大分県主催のDX共創促進事業「沸く沸くDXおおいた」に応募。その結果としてワクフリが支援企業となり、業務改善を進めることとなりました。
そこで、ロストアイテムデリバリーの吉永社長に、同社の業務改善の実態と忘れ物取り扱い年間10万個を達成するための課題など、お話を伺いました。
数千万円におよぶシステム開発費に限界。「沸く沸くDXおおいた」へ応募
-
外国人の忘れ物を取り扱うため、自社システムの構築を図っていた吉永社長。しかし、計画の実現には思っていた以上の費用がかかることがわかりました。
- 吉永社長
-
「自社のシステムを作っていかなければならないと思っていたのですが、2021年に別府市のビジネスコンテストに出た時に相談したところ、1から作ったら数千万円程度かかるだろうと言われました。
もちろん、システム化をどこまで進めるかにもよりますが、『今はシステム化に多額の出資ができるタイミングではない』と思い、別のサポーター企業さんに相談したところ、『「沸く沸くDXおおいた」というのがあるから、申し込んだらいいんじゃないですか?』と助言をいただき、申し込みしました」
-
優れたプレゼンのおかげもあり、「沸く沸くDXおおいた」の支援を取り付けたロストアイテムデリバリー。支援内容には、コンサルによる業務改善がありました。
その支援事業者にワクフリが選定されました。
- 吉永社長
-
「コンサルのみなさんが集まってプレゼンされる場がありまして、その時、ワクフリの下坂さんからご説明を受けました。
さらに、髙島さんから『当社はこんなことをやっています』といった内容のメールをいただき、改めて話し合いの場を持つことになりました。
元々、当社向けのシステムを1から作るのは難しいと思っていました。そんな中、髙島さんは既存のシステムを組み合わせたり、できるところは当社で作業するなどのご提案をしてくれて、髙島さんのお考えと私の思いが一致したため、ワクフリさんに支援をお願いしようと思いました。
どうやって進めていくか、当初は全体像が見えていなかったので、手探り手探りでした。もちろん不安はありましたが、話し合いを重ねる中で、その不安はなくなっていきました」
業務の仕組みから関わり社内業務のルール化と可視化を支援。現業務フローやデータフローを改善
-
支援事業者の選定後、いよいよワクフリがロストアイテムデリバリーの業務改善を進めることとなりました。
まず始めたのが社内業務のルール化と可視化です。パンフレット送付ルーティンなど新規営業フローの作成や、荷物料金に関する社内ルールの作成、荷物の追跡のルーティン化など荷物管理に関する社内ルールの作成といった、業務の根本となる仕組みの再構築から、ワクフリは支援することとなります。
- 吉永社長
-
「最初は『可視化って何だろう? 社内業務のルール化っていうけど、どうするんだろう』といった具合で、よく理解していませんでした。
当社は設立から間もなく、スタッフが増えているフェーズなので、業務がどうしても属人化していました。そんな当社のやり方にシステムを合わせるのは結構難しいと思っていたのですが、ワクフリさんのヒアリングを受けるうちに、少しずつ、現状の課題がわかってきて、ゲストとのやりとりやパターンが可視化できるようになってきました」
-
ワクフリはヒアリングを通じて同社の業務を可視化。ゲストとのやりとりを、網羅的かつ単純なパターンへ落とし込んでいきました。
業務の仕組みから関わり、業務改善の本質をワクフリが示せたことで、システム化に困難を見ていた吉永社長は、デジタルツール実装への確かな手応えを感じたと言います。
- 吉永社長
-
「担当者個々が、ケースバイケースで対応することが多かったと気づきました。一連の流れに沿ってやる中で、ある程度パターン化はされていたのですけれど、イレギュラーなことも多くて、その都度対応していましたね。
それを、ワクフリの池田さんをはじめ、みなさんが『ここはもうちょっとまとめた方がいいんじゃないですか?』といったアドバイスをしていただけたので、個別対応の量は劇的に減ったと思っています。
また、自分たちだけでは気づいていなかった業務改善点が、多々あったと思います。ワクフリさんにヒアリングしていただいたことで、『うちにはこういう課題があるよね。こういうのもあるよね』といった感じで、次から次に課題が出てきました。
そして、システムを当社のルールに寄せるだけではなく、システムの方に当社のルールを寄せていくことも必要だなと思えるようになり、デジタルツール実装への糸口が見えてきました」
-
そして、ロストアイテムデリバリーはkintoneを実装することになりました。メインアプリとして「依頼案件管理」や「ゲスト返信用メールテンプレート」など主なもので14種。サブアプリは9種以上が実装されました。
- 吉永社長
-
「kintoneの存在を私はまったく知らなくて、様々なデジタルツールを切り貼りして使っていました。それが、kintoneだと簡素化されていて、今まで使っていた方法よりも手がかからない。『こことここをクリックして、こう』といった感じで簡単に使えました。
また、当社のスタッフはアプリなどを扱うのが好きなので、ワクフリさんがやり取りを綿密にしてれくたおかげで、kintone導入後にある程度のアプリを自社で作れるくらいまでになりました」
16分の業務が5分台に激減! 全体で60%以上の時間削減に成功
-
作業工程の見直しやkintoneの導入など、業務改善の進んだロストアイテムデリバリーは、大幅な時短に成功しました。
- 吉永社長
-
「1件あたりの業務時間が、以前は16分くらいかかっていましたが、それを6分程度に短縮できましたし、全体業務として、導入時点で60%ぐらいの時間削減を実現しました。追跡機能は10分の1くらいの工数になっています。
今では使い方にも慣れましたし、その後システムを改善しましたので、オペレーションが平均で5分台ぐらいになっていますね。
依頼の増加に対してキャパを超えないような処理能力を持てたと思います。一番大きかったのは、属人化がなくなったことです。以前は1つの案件に誰かがずっと携わっていなければならなかったけれど、今は途中から別の人が携わってもできるようになりました。
業務時間も短縮できて、理想通りになって……もう、本当にありがたい限りです」
忘れ物取り扱い件数年間10万個を目指して…今後の課題と実現への道
-
ワクフリの支援を受けて、業務改善に成功したロストアイテムデリバリー。吉永社長はさらに年間10万個の忘れ物処理を目指し、チャレンジを続けています。
- 吉永社長
-
「この事業を始めた時、2029年で10万個の取り扱いを目標にしました。そして2024年、基盤がようやくできたと思います。しかし、その基盤作りをワクフリさんが支援してくれていなかったら……大変なことになっていたはずです」
-
営業面での目標や課題と並行し、ロストアイテムデリバリーはDXに関しての改善も継続する必要があると、吉永社長は気を引き締めて言います。
- 吉永社長
-
システムの課題は次から次に出てきますね(笑)。ワクフリさんの言葉で言うと、「もっと丸めていいんじゃないですか?」と。さらなる合理化が可能だとおっしゃってくれています。もっと綿密に作業の見直しを継続すれば、工程を簡潔にできて、作業時間の短縮につながると思っています。
業務フローに関してもルールに関しても、まだまだ改善していくことはあります。業務が拡大したら、イレギュラーケースも増えるでしょう。そして、さらなるパターン化を実施しなくてはいけない。業務改善はエンドレスですね。
だから、今回の業務改善は、ファーストステップとしてワクフリさんと構築できたと思っています。初期段階の整理が大方できたということでしょうかね」